おおつか なおみ

大塚 直美

幼少期に父親の海外赴任へ帯同。イギリスとオランダにそれぞれ3年ずつ在住。
帰国後は日本の公立校へ編入。
青山学院女子短期大学英文学部英文学科卒。
チェースマンハッタン銀行(現:JPモルガン・チェース銀行)東京支店に入行後、チェースマンハッタン信託銀行へ出向。
行内のJob Posting制度を利用してセクレタリーへのキャリアチェンジを果たし、銀行のコーポレートディビジョン(営業部)付グループセクレタリーとして7年勤務。
ジュニアセクレタリーから2年でシニアセクレタリーへとステップアップしたのち、1996年にエグゼクティブセクレタリーを目指して、株式会社コスモ・ピーアールの社長秘書として転職。
結婚を機に退職したのちは、子どもの成長に合わせた働き方を選択。
セクレタリーとしての再就職は、子ども達のお迎えに合わせた時間帯を希望していた当時では難しく、SPIテストを受検してその結果をもとに営業兼コンサルティング職へのキャリアチェンジを決意。
2004年に株式会社コンサルティング・エムアンドエスのオフィス事業部に派遣スタッフのセールス兼コーディネーターとして再就職を実現。
2008年にキャリアカウンセラー(JCDA認定CDA)資格を取得し、2009年に株式会社インテック・ジャパン(現:株式会社リンクグローバルソリューション)に入社。
人材紹介部門を任されながら、キャリア開発関連の研修コーディネーターを兼任。
2012年M&Aにより、リンクアンドモチベーションへグループインしたのをきっかけに、異文化コミュニケーション研修のセールス兼コーディネーターに転属。
大手日本企業や外資系企業向けに、海外赴任者やグローバル人材育成プログラムのプランニングおよび提案活動に従事。
2017年より、QCアドバイザーとして現場でのプログラムの実効性を検証・分析した結果、運用体制の改善案および講師の新育成プログラム案を構築。組織内のPDCA体制確立に貢献。
2018年12月に、グローバル環境の下で生き生きと自分らしく、組織やチーム内で最大限に活躍できる「個」を応援していきたいと考えて、仲間と共に株式会社コムPLUSを設立。

complus.co.jp

【1】

◼️…現在の活動について教えてください。

私は株式会社コムPLUSの代表をしています。
私たちの事業の柱は「異文化コミュニケーション」に特化した研修やワークショップ、そして個別コーチングです。

研修会社にもいろいろありますが、コムPLUSは“異文化ギャップ”にフォーカスしているのが大きな特徴です。
企業や組織の方々に向けて、
異なる文化を背景に持つ人同士が一緒に働くときに起きがちな誤解や摩擦をどう乗り越え、どう強みに変えていくかをテーマにしています。

以前は「海外赴任者」や「グローバル人材」として選ばれた方々を中心に研修を提供していましたが、
今では国内にいながら外国籍メンバーと協働する社員や、多様な人材をマネジメントするリーダー層、
さらには部門を越えてグローバル案件に関わる一般社員の方々にまで対象を広げています。

その背景には、かつて国際部が担っていた海外とのやり取りが、
いまや各事業部や部門が直接グローバルに展開するようになったという、日本のビジネス構造の大きな変化があります。

さらに最近では、国際的な場面に限らず、日本人同士の職場コミュニケーションでも多様性が高まる中で、
「異文化対応力」や「伝わるコミュニケーション力」の必要性をますます実感しています。

また、介護や医療といった人手不足の分野でもお役に立てないかと、新しい取り組みにも挑戦しています。
国が海外人材の受け入れを後押ししている一方で、現場の日本人側の理解や準備が十分でないために、
せっかくの貴重な人材が定着しにくいという課題があるからです。
そうした現場に寄り添いながら、私たちが培ってきた知見を活かしていければと考えています。

◼️…異文化コミュニケーションとは、そもそもどういうものなのでしょう?

一言で言えば、「文化の違いを理解しながら、相手と関わっていくこと」です。

言葉が違うから伝わらない、というよりも、
実際には文化的な背景の違いから誤解が生まれていて伝わらないことのほうが多いんです。

たとえば、日本では相手が「はい」と言わなくても、
うなずいたり黙っているだけで「了承した」と理解されるのが一般的ですよね。
一方で、文化によっては言葉にして「Yes/はい」と言わない限り、了承したことにはならない」という考え方もあるのです。

こうした小さなすれ違いが積み重なると、信頼関係にまで影響してしまいます。
だからこそ、「自分とは違う文化では、どう受け止められるのか」を知ることが、
よりよいコミュニケーションにつながる大切な一歩になると考えています。

◼️…日本という国を、異文化の視点から見るとどうですか?

日本は典型的な「ハイ(高)コンテクスト文化」の国です。
「言わなくても分かる」「空気を読む」という前提が社会全体に浸透していて、日本人同士なら心地よさや安心感にもつながります。
けれども一歩外に出て、特にビジネスの場面で他の文化と交わると、「なぜ伝わらないの?」という摩擦を生むことが少なくありません。

欧米の多くは「ロー(低)コンテクスト文化」と呼ばれ、言葉で明確に伝えることを重視します。
ですから日本の感覚で「察してくれるだろう」と期待すると、思った以上に伝わらない。
これは語学力の問題ではなく、文化的背景の違いなんです。
たとえば「TOEICで高得点を取ること」と「国際会議で発言できること」は、必ずしも同じではありません。

実は私自身、帰国子女として日本に戻ったときに、この「空気を読む文化」に一番戸惑いました。
自分の意見を言うと「言いすぎ」と受け取られ、先生から「はっきり言いすぎる」と叱られたこともあります。

海外では当たり前だったことが、日本では「出過ぎている」と見られる。
そんな経験が続くうちに「これ以上言わない方がいいんだ」と感じるようになり、
発言を控えたり、手を挙げることをためらったりするようになりました。

でも振り返ると、それこそが異文化コミュニケーションだったんです。
もし当時その考え方を知っていたら、「私が悪いのではなく、文化が違うだけなんだ」と理解できて、もっと楽に過ごせたと思います。
だからこそ今は、語学力に加えて「異文化を理解する力」が、グローバルに生きるうえで本当に大切だと考えています。

◼️…研修はどんな内容ですか?

大きく分けて、知識のインプットと実践的な体験ワークの二つを組み合わせています。

知識のパートでは、文化の違いがビジネスでどう表れるのかを具体的に学びます。
たとえば「会議での発言の仕方」「フィードバックや指示の伝え方」「合意形成や意思決定のプロセス」など
日本人がつまずきやすい場面を取り上げます。
ただ理論を並べるのではなく、実際の現場で起きがちなケースを題材にするのが特徴です。

そして体験ワークでは、ロールプレイやグループディスカッションを通して「自分の無意識のクセ」に気づいてもらいます。
たとえば沈黙をどう受け取るか、相手の意見にどう反応するか、
会議でどのタイミングで発言するかなど、
文化の違いがそのまま誤解や摩擦につながるポイントを体感していただきます。
体験することで「頭で理解する」だけでなく「実感として腑に落ちる」ことができます。

多くの参加者は
「英語はある程度できるのに会議がうまく進まない」
「伝えたはずなのに相手が動いてくれない」といった壁に直面して、初めて文化の違いの影響に気づきます。
研修を通じて「これは語学力の問題ではなく、異文化コミュニケーションの問題だったんだ」と理解できると、
日常の関わり方が変わっていきます。

全員が専門家になる必要はありませんが、 異文化コミュニケーションは「学ぶべきもの」だと思います。
交通ルールを知っていれば安全に運転できるように、異文化の考え方を知っていれば摩擦を減らせます。
基本的な考え方を知っているだけで十分効果があります。
実際、学んだ人はまず「自分の当たり前を疑う」ようになります。
相手が違う行動をしても「なぜだろう」と考えられるようになる。

その姿勢が信頼関係を築く基盤になるんです。

◼️…学ぶことで、どんな変化が起きますか?

まずイライラしなくなります(笑)。

「なんで分からないんだろう」ではなく「文化が違うからこうなるんだ」と思えるので、
自分を責める必要もないし、相手を責めることもしなくなる。
そうすると会議の進み方がスムーズになったり、部下との関係が改善したり、プロジェクトが前進したりする。
「違い」を壁ではなく、むしろ強みや貴重なリソースとして活かせるようになるんです。

日本人はどうしても「暗黙の了解」に慣れているので、誤解されやすいし、逆に誤解もしやすい。
だからこそ、意識的に学ぶことが大切なんです。
学ぶことで「自分の当たり前は世界の当たり前ではない」と気づけるようになります。

その”気づき”が、謙虚さや柔軟さを育て、国際的に信頼される人材としての成長にもつながるだろうと思います。