まきの みやこ
牧野 都
【1】
◆…納棺士とは、どんなお仕事でしょうか?
その人らしくお見送りするためのお手伝いをする仕事です。
大事な家族が亡くなった時には、冷静な気持ちを保てないことが多いです。
本来は家族だけで送るのが一番いいのでしょうけれど、
(遺族は故人を)きれいな形で送りたいという気持ちはあるのに、
実現するのが難しい…、そこをお手伝いする仕事です。
ただ形式に沿って進めるのではなく、
ご遺族が送りたい形があるはずなので、
ご遺族に寄り添わなければできない仕事でもあります。
◆…ご遺族と一緒に作っていく部分が多いのですね。
その方(故人)のことをよく知らない状態で対面しますので、
ご家族がお話ししていることをよく聞くように心がけています。
最初の頃は、雰囲気作りを大切にしていましたが、
最近は、送り方はご家族が決めるものだから、
私が無理に作り上げるものではないという気がしています。
静かでもいいし、賑やかでもいい。
それは私が決めることではないですね。
私はご遺族の想いや感情を受け止める器でありたいと思っています。
◆…どうして納棺士になろうと思ったんですか?
きっかけは、祖父母を送ったことです。
祖父を送った当時は納棺士はいなくて、
葬儀会社の方が着せ替えをしてくれました。
その時は、それが当たり前だと思っていましたが、
何年か経って祖母の時は、納棺士の方が着せ替えをしてくれました。
祖父の時とは全く違って驚きました。
◆…どんなところが違ったのですか?
祖父への触れ方を見ていて、
なんとなく雑に扱われたような気持ちになりました。
一方で、祖母の時は
「なんて優しく丁寧に扱ってくださるのだろう」と思いました。
その差を見せつけられた気がして、すごく印象に残りました。
自分の大事なものを大切にしてくれる人のことは、自分の味方だと感じるものです。
納棺士の、祖母への触れ方・扱い方や仕草・振る舞いに(故人への)敬う気持ちを感じました。
この時、初めて納棺士という職業があるのだと知りました。
それで、この仕事に興味を持ちました。
◆…興味を持ってすぐに納棺士を目指したのですか?
悩みました。
「やりたい」という感情とは少し違う感情でした。
ただ、それまで、何かをしたいと自発的に思うことがなかったので
できるかどうかわからないけれど、やってみようと思いました。
◆…まず、何から学びましたか?
故人様への触れ方を徹底的に学びました。
やはり、ご遺族が見ているところで、ご遺体に触れるので、
不快な触れ方をしてはいけないというのが基本です。
もちろん着付けについても厳しく指導を受けるのですが、
それ以上に「上からつかまないように」と注意されます。
◆…つかまずに?どうやるのですか?
たとえば、日常的に物を取ろうとする時には、UFOキャッチャーのように上からつかみますよね。
それは大事な物の扱い方ではないです。
(大事な物を扱う時は)下からすくい上げるように両手で支えるように触れます。
それが、全ての所作の基本で、最初に徹底的に叩き込まれます。
私は雑なので(笑)、普段はつかむし、乱暴に持ってしまいます。
でも、ご遺体を “ものとして扱わない”ということに気をつけていくと、
つかんだり、持ったりはできませんね。
自然にそうなると思います。
◆…その後は、どんなことを勉強するのですか?
着付けやお化粧、お顔剃りの勉強をします。
ほかには、お時間が経過したご遺体の場合、
状態が変化していることがあるので、
わたを詰めるなどの処置をしたりします。
納棺をするための工程をひとつずつ学びました。