たなか ともみ
田中 智美
大阪市出身。
小学校時代をベネズエラで過ごす。高校時代にはアメリカへ留学。
神戸市外国語大学 外国語学部 国際関係学科卒業。
バベル翻訳大学院修了。翻訳修士。
共訳書に以下。
・「方丈記」(鴨長明)英訳
・「日本瞥見記」(小泉八雲)英訳
・「遊びスイッチオン!」(スチュアートブラウン)日本語訳
翻訳歴20年以上。
有限会社T‘sネットワーク 代表取締役
結水荘(ゆうみそう)オーナー
神戸市在住。
【1】
◆…小学校時代は、ベネズエラで過ごしたのですね。
親の仕事の関係で、小学校就学の直前に引っ越して、
小学校を卒業するまで南米のベネズエラで過ごしました。
その後日本に帰ってくるのですが、
日本では学年が半年ずれるので、日本で小学校六年生をやり直しました。
◆…アメリカでの高校時代を経て、大学は日本ですが、大学ではどんなことを学んだのでしょうか?
比較文化について学びました。
卒論は、明治初期に海外に渡った日本人が書いて、
海外でベストセラーになった小説を取り上げて、
異文化コミュニケーション論について書きました。
実際の海外生活もありましたので、
文化を比較していくのは面白かったですね。
◆…翻訳家になろうと思ったのはいつ頃ですか?
小学生の時から翻訳をやるつもりでいました。
幼い頃から本は好きでした。
ベネズエラに行く最初の荷物の中に、
親が日本語の世界文学全集を入れてくれていたんです。
現地では、日本の本は手に入らないですから。
世界の文学全集なので、
学校の図書館に行けば原書もあるんですね。
常に日本語と英語、さらに色んな国の言葉があって、比較しながら読める環境でした。
そこに、翻訳というものが介在してることに対してすごく意識があったと思います。
翻訳の通信講座は、高校時代からずっとやっていました。
◆…翻訳の魅力は何でしょうか?
同じ文章を読んでも、みんなが同じにとらえてるという保証はないですよね。
書かれている字面は、情報の一部しか伝えてないんです。
でも翻訳しようと思ったら、
本来だったらイコールになっていなければいけない…。
(翻訳家として)イコールにしようと思ったら
書いた人と同じレベルの知識を持っていなければ、同じものを作れません。
字面に表れていない背景や、原文を書いた著者の思い、知識を知らなければならないんです。
役者さんに似ているかもしれません。
翻訳をしている時は知識も経験もすべて追体験させてもらっている感じです。
たくさん調べ物をして、時間もかかりますが、その過程がすごく楽しいです。
私は実務翻訳がメインで、スピードが求められますから、
締め切りに追われるのは、ストレスですけれども(笑)
自分が追体験できているものを
人にも伝えてあげられるのが翻訳の素晴らしいところです。
私がいなかったら、違う言語を読めない人にとっては
知りえなかったことかもしれません。
知らなかったことを教えてあげられる、
その橋渡しをできるところが魅力だと思います。
◆…AIの発達が目覚ましく、滑らかに訳せるようになってきているように思います。
この流れをどう感じてますか。
機械翻訳もかなり滑らかに翻訳するようになってきていると思いますが、
今の滑らかさはあくまでもデータなんです。
人間は初めて見たこと、聞いたことでも行間が読めます。
字面に表れていない部分までも読み取れるのが人間です。
一方で、機械は複雑に読み解いてはいますが、字面以上のことは読めないんです。
Aと言ったらBと言うパターンが多いとか、
この組み合わせだったら、次にくるのはこれだ、というデータだけなんです。
その学習量が多いので、自然で滑らかな訳だと思わされているだけです。
覚えさせるものを意図的に偏らせると、偏ったものになります。
機械は、本当の意味の行間を読んでいるわけではないんです。
もちろんAIや機械を使うことによって、翻訳作業は効率化されていくので、
人間の翻訳家は淘汰されていくと思います。
でも、AIを作るのも人間ですし、
まして、行間を読み解くときに、
作家が乗り移る感覚は、AIは絶対に感じないですからね。
翻訳そのもの以外にも、翻訳チェックの仕事もたくさん頂きます。
私は、大雑把な性格なので、
細かい数字とか抜けがあるとかをチェックするのは向いてないように思いますが、
それでも私に依頼があるのは、
その全体の規模感を読んで、行間を見られているからかなと思っています。
どのお仕事でもそうですが、
正確さとスピードとを極めていきつつ、
人間だけが感じる行間の部分を大事にしていきたいと思っています。