まつもと ちなつ

松本 千夏

秋田市出身。

秋田県立南高等学校英語科、明治大学短期大学、立教大学経済学部を経て現職。
会社員として世界中に出かける一方で、日本文化について学び
現在は副業として料理教室を運営しながら多様な分野で活躍。
着付けやマナープロトコル、栄養などに関わる食の資格取得し、
ボランティア活動、次世代支援など、幅広い分野で精力的に活動を展開している。

食に関しては、江戸懐石料理師範、 講師のほか、
マクロビオティックコンシェルジュ
アスリートフードマイスター
メンタルフードアドバイザー
フードアナリスト
薬膳アドバイザー
シニアソムリエ等の資格を持つ。

趣味はダイビング、観劇、旅行等。海や山、畑仕事も好き。

 @chi_ma48

【1】

◼️…料理教室を始めたきっかけは何ですか?

コロナ禍が大きなきっかけです。

2020年、コロナ禍に突入して仕事が激減しました。
今まで積み重ねてきたものが根こそぎなくなるような、
ひっくり返るような気持ちになりました。

時間が出来て、何か勉強しようと思って調べてみたものの、どれもしっくりこない。
そんな自分も嫌になって、不安や焦りで絶望しました。

国からの助成金もあり、
社員はオンラインで経理やマーケティング等や、
他の部署や支店の業務なども含め
社会的な様々な勉強をする機会に恵まれました。
その内、講座を作る側に変わっていったんです。

最初は社内向けだったのですが、
次第に社外向けにも、講座をするようになり、
特にワインの講座やマナーのオンライン講座の講師を
仕事としてやらせていただくようになりました。

時を同じくして、個人事業主として副業が認められるようになったんです。
夫や友人も背中を押してくれて
個人事業主として料理教室を始めることにしました。

◼️…会社員だけの生活と変化はありましたか?

変化は大きかったと思います。

会社員しかしてこなかったけれど、
経験してきたことが役立つこともあるのだ。
自分の力でできることがあるのだ、
という前向きな気持ちに変わりました。

時間があったので鳥取の*遊休不動産を活用するプロジェクトにボランティアで参加しました。
「やったことがないこととできないことは違う」という
尊敬する方のことばを思い出して、勇気を出し挑戦しました。

*遊休不動産=店舗やビル、工場、倉庫や土地などのうち、企業活動にほとんど使用されておらず活用もされていない住居以外の不動産

鳥取の遊休不動産活用に携わり地元のご近所の方々と交流しました

チャレンジしたことで、
自分の価値観だけで判断するのではなくて、
できることは まだまだあるはずだと思えるようになりました。

◼️…事業内容はどういうものですか?

お料理教室と講師業です。

コロナ禍でやっていた講座を続けてほしいという要望もあり
マナーやワインの講座をしています。

お料理については
20代のときから江戸懐石のお料理教室に通って
師範と、その上の講師まで免状を持っています。

また、会社内で水泳部に所属していて
アスリートフードマイスターや、
マクロビスティックや薬膳という健康に関する資格もあるので、
全部組み合わせたら唯一なものができると思ってやっています。

◼️…どんなスタートだったのですか?

2020年末に、友だちにおせち料理を教えてほしいと言われたのが始まりでした。

最初は生徒さんが3人でした。
それが口コミで増えていって、
ありがたいことに1年目で延べ150人ぐらい生徒さんが集まりました。

今は300人弱でしょうか。
お友だちを誘ってきてくださったり、
来た方のSNS発信でさらに輪が広がっていったりしました。

実は、私自身が別のお料理教室に今も通っているのですが、
そこで出会った方が来てくださったりします。

◼️…教室はどういう形式でやっているのでしょうか?

ほぼデモンストレーション形式で行います。

ただ、盛り付けは皆さんにやっていただきます。
もちろんそれぞれで作った方がいいようなものは、皆さんに作っていただきます。
例えば鰹のたたきをするときに、
お刺身の切り方…平造りの切り方と斜めの切り方の違いなどや、
大福作りや、ちまき寿司の巻き方など
経験した方がいいと思うものは、参加していただきます。

松葉蟹アンバサダーとして松葉蟹の発信やレシピの考案等もしました

◼️…そもそも食の勉強をしようと思ったのはどうしてでしょうか?

母が薬剤師で、幼少期の頃から医食同源薬食同源という考えで育ちました。
また、祖父母が趣味で庭で家庭菜園をしていたり、
父が沖釣りが趣味で採れたての魚を捌くのを手伝ったりして育ち、食が好きでした。

祖母の家では家庭菜園しており野菜や果物の育て方 お料理の楽しさを学びました

入社してから、会社ではワインの勉強をしている方が多くて影響を受けました。
最初は「赤と白と泡」しか知らなかったのですが、勉強してみたら楽しくなりました。
入社5年目でワインソムリエの資格をとって、
その後もずっとワインスクールに通ってシニアソムリエの資格を取得しました。

世界中のワイナリーを巡って旅をしたら
常に日本の事を聞かれるので、
まずは形からと思って着付けを勉強し始めました。

良い先生に恵まれて、また友だちもできたので
皆さんに会いたくて通っていたら、
師範の免状をいただくまで続けちゃいました。

やめ時がわからないですね(笑)

江戸懐石を学び始めたのは、着付の師範になる頃でした。
仕事や旅行で世界に 行けば行くほど日本のことを聞かれるのですが、
日本のことを答えられないもどかしさを感じました。

最初は形から入って着付けを勉強しましたが、
自分自身は食べる事、ワインが好きだし、日本の食文化を学ぼうと思ったんです。

日本食文化や、懐石は奥が深くて、
どんな勉強をしていても、日本文化に繋がる気がしています。

いろいろやっていてよかったと思います。

◼️…江戸懐石はどういうものですか?

京懐石と江戸懐石で一番違うのは、
江戸懐石は家庭料理であるというところです。
食材も身近なものを使います。
家族のためにあたたかい食事を作るという考えがベースにあります。

京都は公家の方が多くて、
肉体労働がそんなにないから味が濃くないものが好まれました。

一方で、江戸は武士の文化だったこと、
町人が街を作るために肉体労働者が多かったと言われてるので、
味が濃く、鰹節でしっかり出汁をとり、醤油を使う。
水路が発達して、小麦と塩と大豆がとれたところから
関東で醤油文化が発達したのが江戸時代でした。

また(江戸は)武士だからお魚をさばく時は背開きします。
公家は腹開きでいいんですけど、武士にとっては切腹につながるので、
お魚のさばき方でも、背開き腹開きという違いがあるんです。

やっぱり日本人は言霊だったり語呂合わせ、験担ぎが好きなのだと思います。

江戸時代は戦争がなく400年続いている中で、季節の行事が確立されています。
いわゆる「節句」はほとんど江戸時代に確立されているんですね。

調べていくと、
江戸時代は日本の江戸の方が、実はパリよりも人口が多くて、
焼き物などがたくさん輸出されてたようです。

豊かな生活文化は、日本の誇りだなという思いが私の中にも段々芽生えてきて、
日本について聞かれた時も、とても嬉しく伝えられるようになりました。

豊かさと結びつくあたたかな食事であるということを
次世代にも残したいという想いが、今 強くあります。

◼️…日本文化への理解を深めていったときに、海外の方の反応は変わりましたか?

私の伝えやすさが変わったので、反応も変わりました。

やっぱりルーツやストーリなどを伝えるとさらに理解が深まったり、
お互いの文化も、もっと理解したり好きになったりしますよね。

◼️…江戸懐石だけではなくて、さらに食に関する勉強を広く深くしていくわけですね。

師範科になってくるとお稽古事の頻度が減るんですね。

着付と江戸懐石、それぞれ月に1回ずつに減っちゃったので、
余裕が出てきたのと、健康ブームだったこともあって、
もっと勉強してみようと思いました。

江戸懐石は食を「旬のもの」と大きくとらえるのですが
栄養にも色々考えや特徴がある事を知りました。

例えば、旬のものは栄養価が一番高いと考えられますが、
アスリートフードマイスターでは
パフォーマンスを上げるためにとか、
怪我の修復を良くするためには季節に関わらずこれを取る、など
特化した分野が違うんですね。

マクロビオティックでは「陰陽」の考え方を学びました。
「中庸(ちゅうよう)」~真ん中~であることが大事で、
振り幅が激しくなればなるほど、人の感情や体調も崩れるという考え方なんです。

薬膳は*陰陽五行説をもとに考えられているもので
栄養やマクロビオティックと薬膳(陰陽+陰陽五行)を勉強したら
納得することがたくさんありました。

*陰陽五行=いんようごぎょう。あらゆるものを「木・火・土・金・水」の5つの要素に分類し、さらに「陰」と「陽」 に分けて考える思想

例えば海老はタンパク質が多く、貝類はタウリンがあるという知識があると思いますが、
薬膳では(海老は)体を温めるので冬の時期に取ると良いんですね。

お肉もいろんな要素があるのですが、
鴨肉は脂の融点が低いので脂肪になりにくい、
カルニチンが多いから燃焼効果があると栄養学では学ぶのですが、
薬膳の視点で言うと鴨肉は体を冷やすんですよね。
だから冬の時期に(鴨肉を)摂るようであれば、
体を温めるものと一緒に摂るようにすると言う 考え方があるんです。

お料理の本を見ているだけだったり
江戸懐石だけでは伝えきれないこともあります。
いろんな知識を蓄えられたのはよかったです。

来てくださる生徒さんは
体に良くて簡単で美味しいものを求めてらっしゃる方が多いと思うんですね。
さらに、栄養学の面ではこう、薬膳の視点だとこう、というお伝えができるのは面白いと思います。