◆…前職が美容師で、人に触れることについては経験があったとはいえ、ご遺体に触れるのに抵抗はなかったのですか?
抵抗はなかったです。
どの方も誰かの大事な人です。
美容師の時も、もちろんお客様を大事にしてきたのですが、
納棺士の場合は、その意識や視点が、もう少し違うところにあるような気がします。
最初は、怖いという感情よりも、私が触れていいのだろうか?という気持ちでした。
ある程度、技術を身につけるまでは、触れて覚えることも多いので、
技術を持たない、何もわからない新人の自分が触れていいんだろうか、という そちらの怖さはありました。
◆…技術を身につけていく上で、ちょっと苦手だなと思ったことはありますか。
最初の頃は、お顔剃りでしょうか。
美容師としてお客様に触れてきたことと、亡くなった方を触れることとは違いました。
美容師は理容師と違ってフェザー(かみそり)を持たないので、
痩せている方の輪郭を剃る時は、
傷をつけないようにするのに、最初の頃は苦戦しました。
肌の状態も、生きている方と違って弱くなっているので、かなり気をつかいます。
お肌が傷んでいたりすると、そもそもお顔剃りができなかったりすることもあります。
できるかどうか、その見極めも最初は難しいと感じました。
◆…逆に一番好きだなと思うところは、どんなところですか。
美容師時代、シャンプーをするのが好きでした。
納棺士も湯灌(ゆかん)といって、お風呂にお入れすることもあるので、シャンプーをする場面があります。
それは、以前と同じように好きな工程かもしれません。
ヘッドマッサージをすると、故人様も気持ち良さそうなんです。
◆…納棺士は着せ替えだけじゃないんですね。
そうですね。
お着せ替えをする前に、普段の状態に近づける作業をします。
亡くなったばかりですと、目が開いていたり、お口が開いていたり
点滴や治療の挿管の痕(そうかんのあと)があったりします。
病院では簡単な処置をしてくださっていますが、
お身体を起こした時に
血液や体液がもれてはいけないので、
時間が経過しても大丈夫なように、必要なお手当をします。
入れ歯を抜いた状態で顔がくぼんでいる場合は、
ご家族に確認をして、元のお顔に近づけるように調整をします。
お着せ替えは、ご家族の前で行いますが、
その前は、デリケートな部分も多いので、
屏風を立てたりして、陰でさせていただきます。
お仕事としては、棺に納めるところまでが納棺士の役割です。
◆…ただ、必ずしも状態のよいご遺体ばかりじゃないと思います。その辺はどう感じていますか?
実はあまりイメージしていなくて、
入社した時に(いろんなご遺体があることを)聞いて、急に怖くなりました。
すごく不安になりましたが、自分で自分に問いかけてみました。
見てもいない、触ってもいないのに、怖がるのはなんで?って。
そして、「(納棺士の仕事を)やってみたい」という気持ちを大事にしようと思い直しました。
やってみてどうしても無理だと思ったら、その時に考えてみようと思いました。
◆…実際にはどう感じたのですか?
目の前の方を、私がなんとかしなければ!という気持ちになりました。
実際にその場に身を置くと、
“怖い”よりも、“なんとかしなければ”という気持ちが勝ってしまって
まずはこの目の前の方を、待っている家族に早く会わせて差し上げたい。
対面できる状態まで、私ができることをやろうという気持ちになりました。
難しいケースもありますが、
お顔だけはなんとか修復できないだろうかと考えます。
なんとか家族と会えるようにしたい、
普段の姿に戻してあげたいという想いで臨んでいます。
◆…どんな時にやりがいを感じますか?
「この人が帰ってきた!」と言っていただけた時に感じます。
ご遺族からその方のことをいろいろ教えていただきながら
可能な限り、元の状態に戻していく…。
その感じがご遺族の想いにぴったり合って
「(故人が)いつもの状態でここにいてくれる」「いつもの顔だ!」と
感じていただいた時に、やっててよかったと思います。
◆…今後、納棺士をはじめ葬儀業界がどうなっていけばいいと思いますか?
もっと寄り添える人が増えたらいいなと思います。
納棺士に限らず、ご葬儀に関わる人たちが、
寄り添うことができるかできないかで、
ご遺族の「きちんとお見送り出来た」という感覚が変わってくると思います。
事務的に、マニュアル通りにやってしまうと
支えられるべき人たちが、支えられていると感じないのではないでしょうか。
まずはご遺族の想いや感情をありのままに受けとめ、
共感して尊重してあげることが大事だと考えます。
私たちはこういうことができるよ、そばにいてもいいですか?という気持ちで接していく人たちが増えていくと
助けが必要な方々のために、業界全体が良い方向に向くという気がします。
納棺士としては、
この人だったらそばにいてもいいよと感じてもらえるような、
ご家族に許される人でありたいと思います。
そうすれば、ご家族が「助けて欲しい」と言っている要望に
しっかり応えていけるのではないかと思います。
更にきちんと応えられるものを自分自身が持っていたいので、さらに突き詰めていくことが目標です。
私たちが関わる場面は、ご家族が一番助けを必要とする時でもあります。
技術面も もちろん大事ですが
その前にご遺族がこの人になら話してもいいな、この人なら何でも受け止めてくれるなと
思ってもらえるような存在でありたいです。