花火大会を支えるのは、夜空に咲く大輪の花火だけではありません。
打ち揚げの安全と美しさを陰で支える存在があります。それが「筒」です。
新潟県燕市に本社を構える 株式会社ファクトリー・アート は、花火筒を扱うメーカーとして国内でも限られた存在です。
金属加工の町として知られる燕三条の技術を背景に、
花火師たちから厚い信頼を寄せられています。
代表取締役の宮島和則氏に、ものづくりの原点や思いを伺いました。

宮島和則氏(中央)
Q……..まずは、宮島社長が花火に関わるきっかけからお聞かせください。
宮島: 私の出発点は金属加工です。
燕市は古くから金物の町として知られており、洋食器や刃物、工具といった金属製品の工場が集まっています。
当社で扱っているのは、主にステンレス素材を使った各種の部品です。
具体的にはプレス部品や板金部品、ねじやシャフトなどの丸材を切削して作る部品などを製作し、県外のお客様を中心に提供しています。
ある花火師さんから「花火筒を作ってほしい」という相談を受けたことが、すべての始まりでした。
花火の筒は安全性が最優先であり、耐久性も求められます。
木や紙の筒では対応しきれない現場も多く、軽量化できるステンレス材料でつくる需要が少しずつ出てきていました。
実際、小規模な花火では厚紙や段ボール製の筒が用いられることもありますし、
海外ではHDPE(高密度ポリエチレン)やガラス繊維の筒が広く使われています。
これらは軽量で扱いやすい反面、耐熱性や耐久性には制約があります。
より大きな玉や繰り返し使用が必要な現場では限界があるのです。
その点、金属製筒は強度と耐久性に優れており、再使用にも耐えられます。
鉄やステンレスは、花火師が安心して大玉を打ち揚げられる環境をつくるために欠かせない素材だと感じました。
本格的に花火筒を作るようになってから約30年になります。
「宮島さんの筒なら安心して打ち上げられる」と言っていただけるようになりました。
Q……..花火を打ち上げる筒。その特徴やこだわりを教えてください。
宮島:花火筒は、火薬を詰めた玉を狙った高さまで正確に打ち揚げるための役割を担っています。
もし筒が強度不足であれば筒の中で玉が破裂してしまう危険がありますし、
逆に余計な抵抗があれば高さが出ません。
だからこそ、安全と精度の両立が一番大切なのです。
打ち揚げの一部は筒の性能にかかっています。
私たちが扱っているのは ステンレス製の筒です。
ステンレス材は強度と耐久性に優れており、繰り返し使用できるという利点があります。
現在も鉄製が使われていますし、海外ではアルミの筒も使われていますが、
ステンレス製筒は湿気や雨にさらされても、
また、海の防波堤や砂浜で打ち揚げしていただいても 錆びにくいため、
保管やメンテナンスの面でも花火師の方々に安心してもらえます。
ファクトリー・アートでは設計図を作成し、それを燕市内の協力加工工場で製作しています。
燕三条地域の確かな技術力を背景に、花火師の要望に応えられる筒を形にしています。
花火師様によって打ち揚げ方の違いや、大会会場ごとの条件が加わりますので、
同じサイズの玉であっても同じ筒が合うとは限りません。
だからこそ現場の声をよく聞き、使い手の思いに応えられる筒を作ることを大切にしています。
Q……..なるほど。職人の表現を「支える」役割なのですね。
宮島:はい。
花火そのものは私たちが作っているわけではありませんが、
花火師の表現がきちんと観客に届くかどうかは筒にかかっています。
表には出ませんが、大切な責任を担っていると思っています。
Q……..これまで数多くの現場に関わってこられたと思いますが、特に印象に残っていることはありますか。
宮島:一番大切にしてきたのは「安全」と「安心」です。
花火は大勢の人が集まる場所で打ち揚げられるものですから、万が一があってはならない。
幸いにも、これまで大きな事故につながるようなトラブルはありませんでした。
それは筒づくりに携わる者として誇れることだと思っています。
Q……..現場からの信頼が積み重なってきたのですね。
宮島:そうですね。
花火は一瞬の芸術ですが、その一瞬を支えるために、裏方は何重もの安全策を張り巡らせています。
見えないところで「当たり前に安全と安心が守られていること」こそ、私たちの誇りです。
Q……..現在、直面している課題や、これからの展望についてお聞かせいただけますか。
宮島:大きな課題は、やはり「後継者」と「技術の継承」です。
金属加工の町・燕三条も例外ではなく、職人の高齢化が進んでいます。
若い世代にどう魅力を伝え、次につなげていくかは常に考えています。
花火大会を取り巻く環境も年々変化しています。
同時に「伝統」を守ることも大切です。
花火の文化は、日本人の祈りやお祭りと深く結びついてきました。
その文化の一端を担うものづくりをしているという自覚を、常に忘れないようにしたいと思っています。
そして、私自身が大事にしている言葉があります。
良寛さんの「一生成香(いっしょう せいこう)」です。
「一生、香を成せ。生涯いい香りを発しながら生きよ」という意味で、
香りとは単なる匂いではなく、その人がそこにいるだけでまわりを爽やかにし、和やかにし、幸せにしてくれるものだと説かれています。
なかなか理想通りにはいきませんが、私含め弊社社員が営業に伺った時、
「来てくれてありがとう」と言っていただける人になって欲しいと思っています。
花火もまた、一瞬の光でありながら、人の心を和ませ、幸せにしてくれる存在です。
自分自身も仕事を通じて、そんな「香り」を放てるようでありたいと願っています。
花火は「人をつなぐもの」です。
観客の笑顔、花火師の情熱、地域の人々の思い、そして私たち裏方の努力。
そのすべてが夜空の一瞬に集約される。
花火を通して人がつながり、地域が元気になり、文化が受け継がれていく、
その循環の中に自分の仕事があるのは、何よりの喜びです。
株式会社ファクトリー・アート
所在地:〒959-1274 新潟県燕市柳山1295番地
TEL:0256-66-4100(代)
FAX:0256-66-4101