ささき あき
佐々木 亜紀
【2】
◼️…”インテリアデザインWal&D”の事業内容を教えてください。
建築仕上げ材のショールームを持ちつつ、インテリアデザイン業を中心に活動しています。
このショールームを拠点に、インテリアのご提案から施工まで、
アーティストとのコラボレーションやカルチャーイベントの企画・開催も行っています。
そしてご依頼があれば講演も行っています。
当ショールームでは厳選した上質な輸入ペイントや左官材、壁紙などを揃えています。
ちょうど洋服のセレクトショップのように、実際に手にとっていただいて、
お客様と一緒にコーディネートしながら工事までワンストップでお受けしています。
ショールームは生活に身近な複合施設内にあるので、
お花や食材の買い物のついでにふらっと立ち寄っていただくことも多いです。
◼️…起業する為に最初にやったことは何ですか?
秋田商工会議所の起業塾を受講しました。
起業にまつわるあらゆること、補助金申請のための事業計画書の書き方などもそこで学びました。
◼️… ご自身のブランドについて、どのように考えていますか?
私自身がもうある程度年齢を重ねており、
私のクライアントの多くも50代以上の方、人生を楽しむことに価値を感じている方が多いので、
自分が納得できるものだけをお客様にご提案するという姿勢を大切にしています。
贅沢を追い求めるというよりも、
好きなものに囲まれて心が安定し、幸せな気持ちになれる暮らしを目指しています。
ファストファッションやファストフードのように、
住宅も時代とともに手軽で安価なものが増えてきていますが、
私自身はそういった流れとは少し距離を置いています。
最初にコストはかかりますが、
環境に優しいこと、健康にも、心にもよいものを選び、
お客様の日々の暮らしが美しく楽しくなるような形をお伝えしています。
◼️…これまでに印象的だった活動を教えてください。
メンタルクリニック診察室の内装を手がけさせていただいたことです。
きっかけは、先に院長先生のご自宅リフォームに関わらせていただき、
「今度は自身のクリニックの診察室も、患者さんが癒される空間にしたい」とのご相談がありました。
施工前は一般的な白いビニールクロスの部屋だったのですが、
それをすべて剥がし、ペイント用の下地を作り、
環境に優しい安全なイギリス製の水性インテリアペイントを使用し、
グレーがかった深いグリーンに塗装しました。
当初のプレゼンより、
東京藝大大学院に在学中の*菅原果歩さんによるハンドペインティングをご提案し、ご快諾をいただいておりました。
壁に森や鳥の絵を描いてもらい、物語性のある美しい空間が完成しました。
通常なら診察室は無機質な白いクロスという印象ですが、
施工後は、リクエスト通りの深い森の中にいるような落ち着きとやさしさのある空間に生まれ変わりました。
患者さんやスタッフの方から
「ここにいるだけで癒される」「ずっといたい」と言っていただき、とても嬉しかったです。
先日は菅原さんと(菅原さんの秋田公立美術大学時代の恩師) 人類学者*石倉敏明先生とでトークイベントを開催しました。
大学の先生方や学生さん、一般の方も参加してくださり、
今回のコラボレーションや作品について深く分析・言語化していただいたこともとても印象に残っています。
◼️…豊かに暮らす提案をしようと思ったきっかけはどこにあったのでしょうか?
自身の体験にあります。
たとえば、プラスチックのお椀で食べるよりも、
漆のお椀でいただく方が同じお味噌汁でもずっと美味しく感じられるように、
住宅という“人生の器”も、良い素材、好きなものに囲まれて暮らすことで、
日々の気持ちは自然と心地良くなっていきます。
在宅介護をしていたときは毎日が精一杯で、家を片付ける余裕もありませんでした。
ですが、母に往診の先生がいらっしゃるとなれば、
ほんの少しだけでもテーブルの上を片付けたり、クロスをかけたり、お茶を用意したり
そんなふうに“誰かを迎える”ために少し空間を整えるだけで、
気持ちも自然と上向きになり、心が安らぐのを体感しました。
逆に、部屋が荒れていると心まで荒れてしまう。
家全体を片付けるエネルギーはなくても、スポット的にでも心地よい場所を作ると、
日々の暮らしや気持ちは驚くほど変わるのだと、自分の経験を通して知ることができました。
こうした実体験から、初めから全てを変えるのではなく、
「この部屋だけ」「この一面だけ」といったアクセントウォールや、
ほんの一角だけでも心地よい空間を作ることを提案したいと思うようになりました。
それは流行や理屈ではなく、自分自身が体験し「本当に気持ちが変わる」と実感したからです。
◼️…今後の活動について教えてください。
今のショールームのある複合施設は、魅力的な入居者の方々と一緒なので、
とても楽しく過ごしながらお客様を迎えているのですが、
もしも古民家かどこかのスペースをお持ちの方から
「ここで自由にやっていいよ」とのお話があったとしたら、
「ライフスタイルをトータルで提案できる場」ーーー住宅の内装を軸に、
アートや生活工芸品など、暮らし全体を体感できるような場所での企画展示、ご提案ができたら素敵だなと思います。
15年以上続けている写真は、今は仕事にも役立っています。
在宅介護をしていた頃、外に出られない中で家の中の食べ物や暮らしの風景をテーブルフォトとして記録するようになりました。
友人から勧められて始めた写真ですが、
今ではインスタグラムにもアップしていて、
視覚的な美しさや世界観を伝える大切なツールになっています。
建築旅の記録はインスタの別アカウントにもまとめていて、
20年以上かけて巡ってきた思い出は、まだまだアップしきれていません。
建築やインテリア、アートが好きで、
国内外問わず、興味のある建築や美術館には積極的に足を運んでいます。
去年と今年はスリランカを訪れて、長らく憧れていた建築家ジェフリー・バワの自邸や別荘を巡りました。
彼の自邸は一日一組しか泊まれない特別な場所で、
足を踏み入れた瞬間、自然と涙がこぼれるほど心揺さぶられました。
世界中から集められた調度品、長年かけて手入れされた庭――体感することでしか得られない感動があります。
地元アーティストたちの手仕事を重んじ、時間と共に味わいが深まり
「そこに居ること」自体が喜びとなる、芳醇な人生の器となるような空間。
バワが作り上げる、建築とアートと自然が交差する「精神の居場所」に強く心惹かれています。
一方、和の室礼についても非常に興味があります。
早くに亡くなった父が遺した骨董に触れていた影響かと思います。
まだまだ初心者ですが茶を習い、野の花のなげいれ教室をガラス工芸家で
ある秋田公立美術大学の瀬沼健太郎先生と開催しています。
自身の経験を踏まえてようやく見えてきた、
日常を豊かにするご提案、仕事を通じて皆さまのお役に立てるよう、
これからも日々学びながら前に進んでいきたいと思っております。