まつもと ちとせ

松本 千登世

エディター・ライター。
航空会社勤務、広告代理店勤務、出版社勤務を経てフリーランスに。
雑誌やWEBなどで美容記事やインタビュー記事、
エッセイの執筆、コピーライティングを中心に活動。

『顔は言葉でできている!』(講談社刊)
『結局、丁寧な暮らしが美人を創る。今日も「綺麗」を、ひとつ』(講談社刊)
『ピンクのカラス』(BOOK212刊)ほか著書多数。
出版レーベル『BOOK212』代表。

BOOK212
『BOOK212』オンラインショップ
 @book212matsumotochitose

【2】

◼️…どんな子ども時代でしたか? 

自分が思い描いたものと本当の自分の差が埋められなくて悩んでしまうような子でした。
冷めていたり、子どもっぽくなかったかもしれないですね。
今の私が、当時の私を見ると、かっこつけている子だなって思うと思います。

小学校四年生の時に引っ越して学校が変わったんです。
転校生はどうしても注目されるので、”見られる感じ”がすごく嫌だったんだと思います。
見られてもいい自分でなければならぬっていう鎧を着けちゃったでしょう。

もちろん(鎧があることは)自覚はなかったので、 苦しいとは思わなかったけれど、
振り返ると常に違和感がある感じ、何かしっくりこない感じだったように思います。

大学に入って、寮生活になりました。

たくさんの人たちと寝食を共にするので、ものすごく関係が深まるんですよね。
たくさん会話をして、泣いたり笑ったりして、生涯の友もできました。

そんな中で、自分がどういう人間なのかを知っていったようにも思います。
自分が自分のままでいいのだ ということも、少しずつわかっていったような気がします。 

◼️…大学生活が、ひとつの転機になったのですね。 

今の自分は、大学生活の中で生まれたのかもしれません。

私は英文科に入ったのですが、
最初の授業の日、留学経験がある人がどれ位いるか訊かれました。
ほとんどいるわけがないと思っていたのに、7割ぐらいの人が手を挙げたのでとても驚きました。

授業も最初から英語でスタートしました。
何のことかさっぱりわからなくて、崖から落とされたような感覚になりました。
学校からの帰り道 ふと涙がこぼれたのを覚えています。

それは つらい体験だったけれど、
幸い、寮の仲間とは学部や学科を超えたところで会話をしていたので
できないことも、受け入れて楽しめばいいんだなと思えるようになっていきました。 

それは「できる(ように見せてた)自分」じゃなくていいんだという気持ちに繋がって、
ふわっと起き上がれたところもありました。

今まで抱えていた(何かしっくりこない)感覚が
オセロゲームのようにクルクルと変わっていったのが大学時代です。 

◼️…大学を卒業して航空会社に勤務なさったのですね。 

”本の翻訳”という夢はいつの間にか隅に追いやられ、
大学を卒業して就職したのは、航空会社でした。

編集者とかライターとか、そんな職業があるということさえも
当時は多分知らなかったんじゃないかと思うんです。

私はバブル世代で、学生にとっては売り手市場でした。
「私もどこかに就職するのかな」とぼんやりと考えながら過ごしていたと思います。

その”どこか”が航空会社だったわけですが、客室乗務員の仕事はとても楽しいものでした。
旅もたくさんしました。
和気あいあいとした雰囲気の中で、先輩にも同僚にも恵まれていたと思います。

ただある時ふと、これって私じゃなくてもいいのかもしれない?と思いました。
それをきっかけに航空会社から広告代理店に転職をしました。 

◼️…広告代理店でのお仕事はどうでしたか? 

こんなことできたら面白いよね と常に話している集団で、
アイデアを形にしていく面白さがありました。
客室乗務員は女性ばかりの職場でしたが、
男女問わずいろんな年齢の人がいたので、いろんな意見が出てくるのも新鮮でした。

化粧品という面白いプロダクトに出会ったのもこの時です。

文章を書くのが好きだし面白そうと思って飛び込んでみた世界でしたが
ものを書く、作ることの素晴らしさに目覚めたと同時に、
大変な職業であることも知りました。

数年経った頃、
新しい女性誌発刊のために編集者を募集しているから行ってみない?
声をかけてくださる方がいて、
編集者って何かもわからないけど、挑戦したいと強く思いました。 

その時、私は30歳でした。 

◼️…広告代理店と出版社はまた違ったのではないですか? 

化粧品のお仕事もしていたから大丈夫だろうと、
希望に満ち溢れて転職したのに、本当に大変でした。

つらかった。

30歳ならもっとプロであるべき年齢なのに、何もできない自分と向き合うことになります。
新人だからしょうがないのに、素直じゃなかったのですね。
あの時の自分の肩を揉んであげたいです(笑)

ただ、そこでも本当に良い出会いがあって、編集の面白さに目覚めたんです。
編集の仕事が大好きになりました。

”生まれ変わっても編集者”ってその時から思っています。 

◼️…どんなことがあったのですか? 

今の仕事につながる美容はもちろん、ファッションやインテリア、料理など、
さまざまなジャンルに挑戦する機会を得ました。
特に、面白いと感じたのは、モノクロの読み物ページ。

記憶に残っているのは、「30代は友達の再構築期」
仕事や結婚、出産などさまざまな人生の選択によって、
立場の違う人同士が互いを理解しづらくなり、
それまでの友達関係が変わって心がざわつくという読者の声を耳にして、
むしろなだめるのでなく、
それぞれのネガティブな思いもストレートに伝える形でページにしたら、
思いのほか反響を呼びました。

そして、「それでも、東京に住みますか?」という企画では、
東京の欠点と地方の素晴らしさを浮かび上がらせて 地方での生活を勧めるつもりが、
「東京も素晴らしい」「人生をどうデザインしたいか次第」という、
目指したゴールとはまったく違う結論になりました。

切り口も結論も編集力次第というのが快感で、
”生まれ変わっても編集者”だろうと思います。 

◼️…これまでの経験がこの絵本にも繋がったのでしょうか? 

私の編集者としてのキャリアはほとんどが”美容”なんですね。
このストーリーは美容の真髄でもあるなって思ってるんです。

美容は進化するにつれて、若さにすがりつくものになってきてしまったと思うんです。
美しさ=素敵さだったはずなのに、美しさ=若さになってきた。
人は若さにとっても興味を持つようになってきてしまったと感じています。

そうではなくて、自分らしさを誇らしく思って欲しいんです。
若いふり、美しいふりじゃなく
人として成長し成熟していく中に、美が生まれるものであってほしいなと思います。

例えば髪型にしても自分はショートカットが好きだけれど、
長い方が男の人好きなんでしょ?伸ばそうかな。
赤リップが好きだけれど、ピンクベージュの方が好かれるかな。
そんな生き方もあるけれど、
でもそれって本当の意味でその人を見てくれてない人に愛されるってことだと思うんです。

やっぱり自分は 何が心地よくて、何が好きかを見つけていかないと、不満だけが募ってしまうんですね。

こんなにやってるのに、この化粧品は何も応えてくれないって言っちゃう…。
そうではなくて、美容って自分がときめくためにあるって思うんです。

この絵本は、私のそうした美容に対する気持ちも含めて、
自分が言いたいことの本質がぎゅっと詰まったストーリーだと思います。 

出版社の名前を「BOOK212」にしました。
私が12日生まれでラッキーナンバーでもあるし、
シンプルでBOOKも数字もわかりやすいし、世界中に伝わる名前だなと思います。

最初は熱意を持って想いのまま二歩ぐらい一気に進んだ気になるのだけれど、
思いもよらない問題が起こって一歩下がる。

でもその時に、周りのみんなが経験とかセンスで背中を押してくれて
また二歩進めてくれるみたいなこともある。

二歩進んで一歩下がってまた二歩進む…。
結構進んでるねってみんなに言われます。 

いいな212!と思っています。 

◼️…計算するとそうですね(笑)。この先はどう進むのでしょうか? 

牧さんがある時ふと、
この絵本は自分たちよりも長生きするかもしれないねって言ったんです。
ドキッとしました。
本当にそうだなと思ってすごく幸せな気持ちになると同時に、身の引き締まる思いがしました。

今回は、牧さんの絵も私の想いも 美しく絵本に込めることができました。

こうした自分たちの満足感を、もし完成と呼ぶのだとしたら
あっという間に完成するけれど、
ここで終わってしまったら、 私自身も、牧さんも、
そして関わってくれた方々、絵本を手に取ってくださった皆さんも
誰もハッピーじゃないと思うんです。

もしかしたら、ものを創るということは
手渡すときは未完成で、手に取った方々が完成させるもの。
それこそが醍醐味なのかもしれません。

だからペースはゆっくりで構わないから、”創ること”を続けていきたいと思っています。

カラス君のその後も気になりますし、ね(笑) 

*『ピンクのカラス』:『BOOK212』で購入できます

(了)
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