まき かほり

牧 かほり

埼玉県出身。東京在住。
日本大学芸術学部デザイン学科を卒業後、
単身ニューヨークでファインアートやイラストレーションを学び、
帰国後、雑誌や広告などのイラストレーションを数多く手がける。

2018年ロサンゼルスで個展、2019年サンディエゴで壁画制作などグローバルに活動。
近年アップル社、Adobe Systems Inc. との共作をきっかけにデジタル作品も多く手掛け、
デザインとアートの両方に力を入れている。

自身の創作活動とともに、国内外のアーティスト、企業とのコラボレーション(アップル社、Adobe Systems Inc. のほかスポーツメーカーのルコック、デサントなど)を多く手がけている。

第12回 文化庁 メディア芸術祭 アート部門 審査員推薦作品賞を受賞。

@kahori_maki
 maki.kahori
www.k-maki.com

【2】

◆…お父様が画家で、そういう環境が影響したことはありますか?

当たり前のように、油絵の具の匂いがして、
絵がいっぱい飾ってある環境で育ってはいますし、
父と色が似てるなと思う時は時々ありますが、
妹は絵を描かないので、影響があったかどうか、よくわからないです。 

◆…絵を意識したのはいつ頃ですか?

子どもの頃から絵本が好きで図書館でよく借りていました。
小学校低学年ぐらいから 絵本を見て
ういう絵を描く人になりたい、それは絵本作家になることなんだ、と思っていた
学校の先生が「絵本作家じゃなくイラストレーターだよ」って教えてくれました。

私の中では、イラストレーターになるってことは決まっていたんです。
美大に行くことも決まっていました。

何を描きたいかというよりも、絵で食べていこうと強く思っていました。 

◆…美大を卒業したあと、単身ニューヨークに渡るのはどういう決断だったのでしょうか?

大学在学中にニューヨークに行こうという決断をしました。
やっぱり好きで「人」を描いていたので、
ニューヨークは人種のるつぼだから、
一気にいろんなタイプの人が描けると思ってニューヨークに決めました。

また、ニューヨークという場所が自分に合っていたと思います。
日本はほぼ日本人だけなので、以心伝心というか、
無意識の内にちゃんとしなきゃって思うけれど、
あっちへいくとあまりにも色んな常識があるから、
着いた瞬間に自由になれるみたいな感じがあって、解放感がありました。

ニューヨークでは2年間学びました。

言葉(英語)に対する気持ちの壁もなくなっていたので、
帰国後、グローバルに仕事をたくさんするようになっていくのですが、
ニューヨークでの経験が いかされました。 

◆…帰国してからどんな形で仕事をスタートさせたのですか?

当時は、インターネットもなかったので、今とは全く違うスタンスで仕事をしていました。

ニューヨークに行っている間に、日本ではバブルがはじけて、
帰国したらアルバイトニュース雑誌が、とっても薄くなっていてびっくりしました。

帰国後、一旦 就職しようと考えていたのですが、
本当に仕事がなくて、困っちゃいました。

イラストレーターになると決めてるから、
気持ちを切り替えてフリーランスで仕事をスタートさせました。

本屋に行ってイラストを使ってる雑誌の編集部宛に電話をして、
ポートフォリオを持って売り込みに行って、仕事をもらうという感じでした。

でも当時良かったのは、編集者は新人のポートフォリオを見るのが仕事なので、 必ず会ってくれたことです。
絵だけじゃなく、人となりを気に入ってくれて、その繋がりが今にもいきています。 

◆…絵に向かう気持ちで変化してきたことはありますか?

前よりも、自由だなと思います。

かつては、あるクライアント(たとえばシャネル)をイメージして、
そこと仕事したいなと思って向かってきたこともあったけれど、
今はそのイメージはなくて、ゴールがないところを走っている感じです。

ゴールがないというと宙ぶらりんな印象もありますが、
思いの外、その道は爽やかで楽しく、ゴールは幻だって気づきました(笑)

私の絵を見た時に「あ、これでいいんだっていう解放(される感覚)」を
味わってもらえたら嬉しいし、自分も味わいたいという気持ちが強くあります。 

◆…「解放」というのはどういうことですか?

こういうこともやっていいんだ!という脳みそがぱかっと割れる瞬間ってありませんか。

ニューヨークに行った時もそうでしたけれど、
日本の習慣は、外国ではさほど重要ではなくて
大きく息を吸ったら、思いの外 胸が広がって深呼吸ってこれだ!みたいな発見です。

先日、名古屋で三人展をやった時に父が来てくれたんです。
一人が空間を、一人がカラーを、そして私がモノクロを担当して展示空間を作りました。

それをみて、父が「解放された!」って言ったんです。
なるほど良い感想だなと思って、
もしかしたら、アーティストはこういう瞬間のためにアートを創っているのかもしれない、
そこを求めてるかもしれないと思いました。

奇をてらうような、
そこを狙っているわけではないけど、
その”解放”を自分が提案しできたら最高です。 

◆…まさにゴールがない道のように思えますが、それは苦しくないのでしょうか。

苦しくはないですね。
むしろ面白い作業だという気がします。

えーっ。こういうことができちゃうの?というものを
アートで私ができるんじゃないか?という楽しい探検に出ている感じです。 

◆…その探検をどんな風に進んでいきますか?

今は、人に貢献しよう、と思って描くよりは、
自分がドキドキしながら描ける瞬間を大切にしています。

思うままに描くドローイングで勝負したいと今は強く思っていて
広い空間を埋め尽くすパワーのあるものを目指しています。
一方で、自由に描いてしまうとフレームに収まらないので、
悲しいかな、みなさんのご自宅には飾りづらい作品になってしまう…。

今は、この自由な部分を自分にやらせてる感じですが、
「この絵が欲しい」と思ってもらえるような、その「価値」になりたいです。

人は、ちゃんとやろう、よりよく生きよう、ちゃんと年をとろうと思うものです。
でも”ちゃんと”を取り除くと、苦しさってぐっと少なくなります
表現を仕事にしている人は、”ちゃんと”しないことが大切だという気がします。

フォーマット(形)を考える時もいずれくると思いますが、
今は、自由に、ちゃんとしない形で進んでみようと思います。 

【展覧会のお知らせ】

牧かほり ドローイング展2
2022年9月26日・27日 13:00-20:00
(時間外の方はご連絡ください)

ガリネルスタジオ
東京都目黒区目黒目黒本町5-28-7
090-8772-4608

(了)
インタビュアー:鶴岡 慶子
Copyrighted Article. Do not reproduce without permission.